イバン・イリイチ

「現代文明の根底を問い続けた思想家」

イバン・イリイチ(Ivan Illich、1926-2002)

カソリックの神父として現代社会に足を踏み出した異貌の思想家イバン・イリイチは、北中米社会の実態を目の当たりにすることやバチカンとの争闘を経て、近代の産業文明が生み出した、教育・医療・交通・エネルギーなどの諸分野において、その過剰適応が、逆生産性をもたらし、人間生活の自立と自存(サブシステンス)の基盤に壊滅的な破壊をもたらすことを告発するに至る。
それらの根底的批判から、やがてその視線は、「シャドウ・ワーク」や「ヴァナキュラー・ジェンダー」、「スタッフ(素材)」といった、それまで学問的に概念化されることのなかった領域に光を当て、新たな論争的概念を生み出していく。イリイチが、その詩的直観に導かれるような手つきで探り当ててきた問題系は、今も変わらず、私たち人間存在が当面するアポリアとしてそこにある。
その後イリイチは、文字文化、技術、身体、教会制度といった近代ヨーロッパ文明をそうあらしめた根源を探って深く歴史の中に沈潜したかのように見えながら、時折発表されてきた論文やインタビューは、清新な観点と透徹したまなざしに貫かれた問題意識に満ち満ちており、われわれが未だ見出だしかねている希望の光景を垣間見せてくれる。